メタボリックシンドロームの診断基準
2005年、メタボリックシンドロームの診断基準が示されました。 その診断基準は次のとおりです。
肥満 へその周りの腹囲が男性なら85cm以上
女性なら90cm以上
これに加え以下の2つ以上が該当する場合
高脂血症 中性脂肪150mg/dl以上
またはHDLコレステロール40mg/dl以下
糖尿病 空腹時血糖110mg/dl以上
高血圧 収縮期血圧(最高血圧)130mmHg以上
または拡張期血圧(最低血圧)85mmHg以上
特定健診を受けるとメタボリックシンドロームかどうか判定できます。当院でも特定健診を施行していますので、補助が受けられる期間(地方自治体や会社などで期間が設定されている)にご来院ください。また同時期に癌検診(大腸癌、前立腺癌、肺癌)も施行しておりますので、同時に受けていただくと便利です。
前立腺肥大症や過活動膀胱もメタボリックシンドロームの一部であるとのとらえ方があります。メタボリックシンドロームの治療により頻尿などの症状が改善されることが最近わかってきました。特に日本人の高血圧(メタボリックシンドロームの一部)の多くは食塩感受性の高血圧で、夜間頻尿(または夜間多尿)を引き起こす可能性が高いと言われています。利尿剤を朝投与することにより、夜間頻尿(または夜間多尿)を抑えられる場合がありますので、他の方法で夜間頻尿(夜間多尿)が直らない場合は試してみる価値があると思われます。
メタボリックシンドロームから前立腺肥大症が引き起こされる理由としては、ホルモンバランスが乱れること、炎症を起こす物質が分泌されること、動脈硬化が進み、膀胱や前立腺の血流が不足することなどが考えられています。
生活習慣病で忘れてはならないものに骨粗鬆症があります。
骨粗鬆症
骨粗鬆症とは、長年の生活習慣などにより骨の量が減ってスカスカになり、骨折をおこしやすくなっている状態、又は骨折をおこしてしまった状態のことをいいます。最初自覚症状はありませんが、その後腰や背中に痛みが生じ、ひどくなると骨折を起こし、最悪寝たきりの状態になる場合もあります。そうなってしまってはどうしようもありませんので、予防が必要になります。
以前骨粗鬆症は、骨密度が低下して骨折しやすくなる病気と考えられてきましたが、骨密度が正常でも、骨折リスクが高い患者さんがいることがわかり、骨粗鬆症は骨密度ではなく、骨強度に依存することがわかってきました。骨強度=「骨密度」+「骨質」で表されます。「骨強度」には骨密度が70%、「骨質」が30%関係しているとされています。つまり骨粗しょう症は、骨密度の低下と骨質の劣化、その両方が影響しあって骨折リスクが高まる病気といえます。
骨質とは骨の微細構造、骨代謝回転の速さ、微小骨折の有無、石灰化の密度により示されます。 骨の体積の50%はコラーゲンで、このコラーゲン同士をつなぎとめる架橋が、建物でいう鉄筋の役割をします。この架橋がしっかりしていないと、骨の構造が不安定になり、この状態を骨質の劣化と言います。一方鉄筋を取り巻くコンクリートはカルシウムにあたり、骨密度で表されます。
コラーゲン架橋の劣化は加齢とともに進行するほか、糖尿病や慢性腎臓病などの生活習慣病によっても進行することが分かっています。こうした生活習慣病以外の患者さんでは、骨粗鬆症は女性ホルモンが減少する閉経期以降の女性や高年齢の男性に多くみられます。それ以外にも栄養や運動不足、ステロイド剤の使用(グルココルチコイド剤)でなることがあります。長年の生活習慣が原因となることから、生活習慣病の1つと考えられています。
- 骨粗鬆症をひきおこす原因として大切な因子(まとめ)
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- 閉経期以降の女性 (女性ホルモンが減少して、骨からカルシウムが溶け出すことによる。骨粗鬆症の原因で最も頻度が高い)
- 高年齢の男性 (カルシウムの接種量の減少や骨質の劣化が考えられる)
- ステロイドホルモンを使用している人 (膠原病などでステロイドを長期使用している人は要注意)
骨は固いので、一見するとまったく変化がないように見えますが、実は活発な新陳代謝をしています。つまり古い骨は削られ(骨吸収)、新しい骨が作られる(骨形成)代謝を行っているのです。しかし年齢と共にカルシウムの接種不足やホルモンの不足により、骨を作る機能が衰え、骨を壊す量が相対的にふえてしまいます。こうして骨からカルシウムが徐々に減り、骨がスカスカになっていきます。
骨には二つの役割があります。1つは人体という建造物を支える柱の役割です。 そして、もうひとつはカルシウムを保存するという役割です。 骨はカルシウムの巨大な貯蔵庫なのです。血液中のカルシウム量は人体中のカルシウム量の1%で骨に比べると非常に少量ですが、これを一定濃度に保たないと、心臓や脳が正常に働かなくなります。もし食事中のカルシウムが不足すると、カルシウムの貯蔵庫である骨からカルシウムを取り出して、血液中に補充するという働きがおこります。この状態が続くと、骨のカルシウム量、すなわち骨量が減少して骨粗鬆症になります。
年を重ねるごとに骨粗鬆症のリスクは高まりますが、個人差および性別による差があります。個人差としては、栄養不足の人、運動不足の人、アルコールやカフェインや喫煙の習慣のある人などはなりやすいとされています。また性差として閉経後の女性では女性ホルモンが減少するので、骨からのカルシウムの遊離を抑えられなくなり、骨粗鬆症になりやすいとされています。
- このほか、以下のような骨粗鬆症の危険因子があります。
- (1)遺伝に関係するもの
(閉経の時期、痩せ型、家族歴)
(2)生活のしかたに関係するもの
(偏食、運動不足、アルコール・ コーヒーの多飲、喫煙、日光照射不足)
(3)病気に関係するもの
(胃切除、糖尿病、甲状腺機能亢進症、高カルシウム尿症、
ステロイド剤(グルココルチコイド剤)投与、原発性副甲状腺機能亢進症、腎不全)
これらの中には避けられないものもありますが、できるだけ危険因子を減らしていくように心がけましょう。
骨粗鬆症は自覚できるほどの症状が現れるのは女性の場合更年期を過ぎてからです。
最初は立ち上がるときや重いものを持つとき、背中や腰が痛むという自覚症状が出ますが、さらに進むと、背中や腰に激しい痛みが出現したり、ちょっと転んだだけで手首や足の付け根を骨折するようになります。背中の骨がスカスカになった結果、圧迫骨折を起こすため、背中が曲がったり、身長が縮んで、寝たきりになる場合もあります。
したがって骨粗鬆症検診は、閉経後の女性では症状がなくても原則として1年に1回ずつ測定します。そして1年間に3%以上の減少があるときには、医師の診察を受け、半年に1回ずつ測定をします。骨量は20代から40代後半まで変化に乏しいため、できればその間に一度測定をして、自分の若いときの骨量を知っておくと、老年期になってから若い時の骨量と比較出来るので、役に立ちます。また、40~70歳(5歳刻み)の女性を対象に骨粗鬆症検診が行われています。
男性は寝たきりが長かったり、胃腸・腎臓障害などがなければ、70代までは測定の必要はありません。70代以降の男性は2年おきくらいに測定するのが望ましいと思われます。
骨粗鬆症はどのように診断するのか?
日本では、1996年にパーセントを使った新しい診断基準が作られました。 それは若いとき(20~44歳)の平均骨量(YAMという)の20%減少までは正常、20~30%減少を骨量減少、30%以上の減少を骨粗鬆症と診断するというものです。
骨粗鬆症になると骨折を起こしやすくなり、その意味では30%以上骨量が減ると危険な状態といえます。なお、すでに骨折(外傷性以外の骨折)がある場合は、20%以上の骨量減少で骨粗鬆症と診断します。また、痛みがなくても背が1年間に1cm 以上短縮した場合は骨粗鬆症を疑って、骨量を測定する必要があります。
骨密度検査
「骨密度」は、骨の強さを判定するための代表的な指標です。 骨密度検査では、骨の中にカルシウムなどのミネラルがどの程度あるかを測定します。 骨密度は若い人の骨密度の平均値と比べて自分の骨密度が何%であるかで表されます。 以下の3種類の方法があります
- DXA(デキサ)法
- エネルギーの低い2種類のX線を使って測定。全身のほとんどの骨を測ることができます。 一般的に腰の骨(腰椎)や脚のつけ根(大腿骨近位部)の骨密度を正確に計測して表わされます。
- 超音波法
- かかとやすねの骨に超音波をあてて測定します。 骨粗しょう症の検診に用いられることが多く、X線を使用していないため、妊娠中の方でも測定することができます。
- MD(エムディ)法
- X線を使って、手の骨と厚さの異なるアルミニウム板とを同時に撮影し、骨とアルミニウムの濃度を比べることによって測定します。 診療所などで容易に計測できるため、普及しています。
骨密度検査は、骨の健康を知る上で重要な手がかりです。 特に女性は症状が無くても、40歳以上になったら定期的に骨密度を測ることが進められています(骨密度検診)
骨粗鬆症の治療薬
老化によって減ってしまった骨を若いころのように戻す薬はありません。
しかし、最近では早期治療により、骨粗鬆症による骨折がかなり防げるようになりました。 現在使われている薬は、骨の吸収(骨が溶ける)を抑える薬、骨の形成(骨を作る)を助ける薬、吸収と形成の骨代謝を調節する薬の三つに大別できます。
- [骨の吸収を抑える薬]
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- ビスフォスフォネート
骨を吸収する破骨細胞を抑えることにより、骨密度が上昇し、骨折を予防します。
アレドロン酸(商品名:ボナロン、フォサマック)、リセドロン酸(商品名:アクトネル、ベネット)、ミノドロン酸(商品名:ボノテオ、リカルボン)、イバンドロン酸(商品名:ボンビバ)などが」あります。
内服の場合錠剤が食道に長く停滞すると食道障害が起こるリスクがあるので、180mlの水とともに内服し、服用後30分は横にならないことが必要です。
週1回飲む製剤と月1回飲む製剤があります。
日本のガイドラインではビスフォスフォネートのうち特にアレンドロン酸とリセドロン酸を第一選択として推奨しています。
また高度の腎機能障害のある方は使用できません。
副作用としては、顎骨壊死があります。薬を始める前に虫歯などがないか調べる必要があり、もし虫歯があれば、その治療をおえてから、治療を開始するのが一般的です。
- SERM(選択的エストロゲン受容体調節薬)
女性ホルモンの分泌が減る閉経期の女性が対象で、更年期症状を改善し骨量の減少を抑えます。
ラロキシフェン(商品名:エビスタ)とバゼドキシフェン(商品名:ビビアント)があります。女性ホルモンの副作用である高脂血症や乳癌のリスクを増大させませんが(逆にリスクが低下すると言われている)、浮腫や下肢静脈血栓症のリスクを上げるため寝たきりの方などには使用できません。
- 抗ランクル抗体(商品名:プラリア)
破骨細胞の活動を抑制し、骨吸収を抑制する。半年に1回、筋肉注射する。血中のカルシウムが低下しやすいので原則ビタミンD・カルシウム・マグネシウムの合剤(デノタス錠)の併用が必要。非常に高い骨密度の改善効果を持つ。
- [骨の形成を促進する薬]
- 骨芽細胞の働きを高めて、新しい骨を作る作用作用がある。
- 副甲状腺ホルモン(テリパラチド)
ヒト副甲状腺ホルモンの遺伝子組換えにより製剤化したもので、唯一の骨新生促進効果を持つ薬剤です(皮下注射薬で内服薬はない)。骨量増加作用は上記の薬剤と比較して最も高い。商品名フォルテオ・テリボンの2剤が製品化されている。フォルテオは毎日1回の在宅自己注射(皮下注射)で、テリボンは週1回の通勤での皮下注射となる。
- [補助的な治療薬]
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- 活性型ビタミンD3
小腸からのカルシウムの吸収を促進させて、骨量の減少を抑える。
エルデカルシトール(商品名:エディロール)、アルファカルシドール(商品名:ワンアルファー、アルファロール)などがある。
- カルシトニン(商品名:エルシトニン)
骨量の減少を抑え、背中や腰の痛みをやわらげる。
日本では骨粗鬆症単独の治療としては認められておらず、骨粗鬆症に伴う疼痛緩和の薬として使用される。
- ビタミンK2(商品名:グラケー、ケイツー)
治療薬としての優先度は低い
- カルシウム剤
リン酸水素カルシウムとL-アスパラギン酸カルシウム(アスパラCA)の2種類があります。リン酸水素カルシウムは散剤で1日3g摂取すればカルシウムを699mg摂取できますがL-アスパラギン酸カルシウムは錠剤で1日1.2g摂取してもカルシウムは134.4mgしか摂取ができません。サプリメントが多数市販されており、サプリメントやカルシウム製剤で1日500mg以上を摂取しないのが目安で、食事と合わせても1日2000mgを超えないように摂取しましょう(カルシウムの必要量は年齢・性別によって異なります)。
睡眠時無呼吸症候群(閉塞性と中枢性と混合性があるが、大半が閉塞性なので、閉塞性について述べる)とは
人は一晩にノンレム睡眠(深い睡眠、睡眠の深さによって1~4までのstageがある)とレム睡眠(浅い睡眠)をほぼ90分周期で繰り返しています。正常の睡眠では前半が深いノンレム睡眠が多く、後半は浅いノンレム睡眠となります。しかし睡眠時無呼吸症候群では、覚醒から睡眠に移行するにつれ気道を開かせておくための筋肉の活動が低下して、空気が通らず無呼吸になり、それによる低酸素状態が出現します。その後生体防御反応として数秒間の覚醒(自分では気づいてないが、目がさめてしまっている状態)による呼吸の再開を何度も繰り返しており、良質で深い睡眠が得られないため、昼間の眠気などが出現するようになります。
よって周囲から見ると、①睡眠時にいびきをかく、②そして突然いびきが止まる(呼吸が止まっている)、③しばらくたつと再度強いいびきが再開するといった状態を繰り返しているように見えます。要するに一見いびきをかいているが、ちゃんと寝ているように見えます。しかしいびきが止まった時は、呼吸も止まっているのです。
この低酸素状態の繰り返しが、体に様々な影響を与え朝起きた時熟睡感がない、昼間運転中や会話中に眠くなる、夜何度も目が覚めたり、トイレに起きたりするなどの症状を引き起こします。
更に睡眠時無呼吸症候群が長期にわたって継続すると下記のような合併症(生活習慣病)を起こします。
①高血圧 ②不整脈 ③糖尿病 ④認知症 ⑤心不全 ⑥脳卒中 ⑦うつ病
特に高血圧で薬物治療をしてもなかなかコントロールの出来ない人は睡眠時無呼吸症候群の合併を疑う必要があります。
睡眠時無呼吸症候群の危険因子としては、肥満、家族の病歴、アレルギー、咽頭扁桃肥大(アデノイド)などがあります。
- スクリーニングとしては
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- 男性 4点、女性 0点
- BMI*: <21.0; 1点、21.0~22.9; 2点、23.0~24.9; 3点、25.0~26.9; 4点、27.0~29.9; 5点、30.0以上; 6点
*BMIの計算方法・・・BMI=体重(kg)÷身長²(m)
【例】体重60kgで身長170cmの方の場合:60÷(1.7×1.7)=20.7
- 血圧: 収縮期血圧(SBP)<140 かつ 拡張期血圧(DBP)<90; 1点、140≦SBP<160または90≦DBP<100; 2点、160≦SBP<180または100≦DBP<110; 3点、SBP≧180またはDBP≧110; 4点
- いびき: いびきをかかない、時々、たまに、わからない; 0点、いびきをよくかく、いつも; 4点
以上4項目の合計点数が11点以上で閉塞性睡眠時無呼吸症候群の可能性が高いと判断されます。14点以上ではさらに特異度があがります。
睡眠時無呼吸症候群の検査
①簡易ポリソムノグラフィ検査:自宅で施行可能な検査です。
血中酸素、鼻口の気流、いびきなどを計測します。
重症な方(AHIが40以上の方:精密検査が不要)は、睡眠時無呼吸症候群と診断され、すぐに治療を保険適応で受けることが出来る。
無呼吸(apnea):口、鼻の気流が10秒以上停止すること。
低呼吸(hypopnea):10秒以上換気量が50%以上低下すること。
無呼吸・低呼吸指数(apnea-hypopnea index AHI):1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合わせたもの。例えばAHI 30の人は6時間寝ている間に30*6=180回も脳波上の覚醒が反復されたことになります。
②精密検査(簡易検査でAHIが15~40の方)
専門病院や施設で入院して行う検査のこと
この検査でAHIが20以上なら睡眠時無呼吸症候群と診断され、治療を保険適応で受けることが出来ます。
睡眠時無呼吸症候群の治療
- ①日常生活の改善
- ダイエット、禁酒、禁煙、適度な運動
- ②歯科装具(マウスピース)
- 下顎を前に突き出して固定し、それにより舌根の沈み具合が改善して、気道の閉鎖を防ぐ
- ③C-PAP(持続陽圧呼吸療法:continuous positive airway pressure;シーパップ)
- 装置よりチューブを経由して鼻につけたマスクに加圧された空気(陽圧の空気)を送り、その空気が舌根の周囲の軟部組織を拡張することで吸気時の気道狭窄を防ぐ方法。
最も一般的に使用され、最も効果がある治療。
- ④耳鼻科的手術
- 口蓋垂、口蓋扁桃、軟口蓋の一部を切除し、気道を広げる。